ここへ来るたびに、あの日の事を思い出す。
素朴でのどかな共同温泉、半地下にとどく灯りは薄暗かった。
小判形の浴槽に身を沈めると、突然『ドォーン』と音がして、
見上げた先の青いペンキが剥げた木枠窓が揺れた。
春雷はどこか遠慮がちで控えめらしいけど
凄い轟音に同浴のじいちゃん達『おーとろしいのぉ』と連発。
『はよ上がらな、すぐ本降りになるで。雹も降るんかな?』
平成11年建替えられた今、浴室へ降りる階段は無くなり
脱衣所とほぼ同じ高さになってしまった。
小さく折り畳みしまいこんでいた記憶を、時折ゴボッゴボッと
湧き上がるやや熱めの黄金色のお湯が蘇らせてくれた。
あと数日でもう2月、そして4日は立春。
何時の間にか、静かに密やかにお湯も時間も流れていた