創業から96年、その歴史が終わろうとしている、
運び出された荷物が散乱する庭、飼い犬の吠える声だけが響く。
手足をもがれ間の抜けたような建物の横に・・・無粋な重機。
大将や女将が戻られたらしい、犬の鳴き声が止まった。
『 あらー、あなた達だったの。どうしたの? 』
『 急に会いたくなって。ただ、それだけ・・・ 』
気持ちを即答できる場面でない、容易く言葉にできるはずもない。
『 この敷地には、使ってない源泉もいれて6本あるの 』
『 でもね、温度が低いし落ち着いたらもう1本掘るつもり 』
『 温泉棟もいつか立て直すから、気長に待っててね 』
備品や廃材は、湯布院で新しく生まれ変わるとお聞きした。
ここに存在した証、場所や形が違っても生き続ける事に安堵。
もうすぐ陽が暮れる、何事もなかったように今日が終わる。