職場の休憩室、テーブルの上に黄色く熟れた大粒の枇杷。
或る時はカボスだったりミカンだったり、時にはお菓子も。
『 みなさんへ。どうぞ、お召し上がりください 』
誰が置いたか分からない、ありがとうと少しいただく。
6月20日は親父の誕生日、元気でいれば97歳。
11年前、病気で他界。
重い症状の診断、迷わず実家から自宅近くの病院へ転院させた。
深夜、旅立つ親父を一人見送る。
迷惑や心配ばかりかけた若い頃、せめてもの償い。
『 満州は寒かった。鴨緑江でションベンしたら、そんまんま凍ったわ 』
『 満鉄で働きよった時、通信兵で徴兵されたんや 』
無口な親父。古い話はそれだけ。
几帳面で、人付き会い下手。
趣味なし、仕事一筋。
育ててくれて、ありがとう。
でん、間際にとんでもない我儘。
『 葉っぱが大きくて、実がなるんや。思い出せんけど、あれが食べたい 』
言ってる話がよう分からんけど、どうやら枇杷んごたん。
あるはずもない11月、必死で探した果物屋。
帰宅し、ワシが画いた枇杷の霊前灯を点けお供え。
親父、これやったんやろ、食べたかったんは。
六月は親父・ワシ・孫、三代の生まれ月。これも何かの縁?