お昼寝マンボウの日記

温泉・花たび・お外でランチ、とにかく何でも興味ありのデベソおいさん。日々の、拙い出来事を記録しちょります。

シュールな光景

そいつは事ある毎に『がっコ』『がっコ』と呟いていた。彼の名はワイルド秋田。飯を食う時、飲みに行った時、更にその呟きは増幅されてアクセル全開である。何だい?そりゃぁ。仕事が終わった後も何かの習い事をする風も無いし、どこかの教室にも通っていた話も聞いていない。付き合っていても学校などに行くような、とても向学心に燃える青年とはお世辞にも見えなかった。当時は、本気で何かの習い事かいな?と思っていた。
『それはなーぁにー♪それは秘密秘密秘密秘密のがっコちゃん♪』
彼は仕事が終われば、行きつけのやきとり屋に直行、飲んで騒いで愚痴って、寝る為だけにアパートへ帰るのがお決まりの日課だった。寝ぐらに戻る頃には、すでに銭湯は営業が終わっている時刻。一日中働き、汗をかきほこりまみれの、ワイルド秋田。部屋に戻れば即効で、着ているものを残らず脱ぎ捨て素裸になり、やおら足を台所の流しに足をかけた。そしてシンクの中にしゃがみこんで、隣の部屋に気兼ねするように細く水道の蛇口を開けた。彼の沐浴の時間である。初めて見たときは、お・驚いたのなんの陽子・・・。あのワイルド秋田のでっかい尻が、シンクに収まった時はジャーん!総天然色の一大スペクタクル感動巨編!お涙頂戴のウルルンで、言葉も出なかった。さらに、水道の水をタオルに含ませ体を拭うしぐさは神々しく、部屋中に光を放ち、マンボウはワイルド秋田に思わず両の手を合わせて、ひれ伏した。彼は仏陀かイエスの化身なのか?あの時の光景は、右の大脳に封印された。

『僕ンち、お風呂あるモンね。朝シャワーで出勤、休日の午後はバスターイム』

んなろーが、フンガッ!当時、風呂付きアパートは、憧れの極値のドッピュンだった。風呂を持てないヒガミか、愚痴ミサイルをブルジョワジー攻撃と称して、一杯飲み屋や安定食屋あたりでショボク展開していた。赤貧にまみれて、生活していた平民マンボウ族の私も例外ではなかった。

あれから幾星霜。いまだ平民階層ながらも、休日の温泉めぐりができる環境にある今のお昼寝マンボウは、あの時よりはいくらか成長したのだろうか・・・。温泉に浸かりながら、ワイルド秋田を思い出すこともすでに無くなっていた。今でも彼は、シンクの湯船で湯浴みをしているのだろうか。そして、故郷やお袋を思い出しては、『がっコ』喰いてーと叫んでいるのだろうか。秋田出身のあいつは、付き合っている間中、理解不能の国訛を連射していた。